【韓国大衆歌謡史】イヨンミ(李英美)
この本の記事はMorris.部屋のMorris.日乘で書いたのだが、内容的にこちらにアレンジして転載することにした。
前に韓国語ジャーナルでこの本のことを知り、その頃韓国に行ったムックさんに買ってきてもらったのだが、なかなか読み出せなくて、やっと一ヶ月ほどかけて読み終えた。読み終えたといっても、ほとんど辞書なしで読んだから理解の不充分なところや誤読もあるかもしれない。それでも、Morris.が今一番関心を持ってる韓国歌謡の歴史だし、知ってる歌や歌手名がぞろぞろ出てくるから、そのおかげで読み通すことができたのだろう。
著者は1961年ソウル生れの女性評論家で,専門は演劇関係らしいが、本書では、楽譜も多数引用して音楽理論も盛り込み、歌詞の内容に関してもしっかりした解説を施している。何よりも韓国歌謡の黎明期から90年代までを時間軸を追ってきちんと整理解説してあったので、Morris.の韓国歌謡理解に大きく裨益した。と思う。とりあえず、裏表紙の本書の紹介文を引いておく。
本書は1920年代から1990年代末の現在までの、韓国大衆歌謡に関する、最初の通時的な著述であり、大衆歌謡界裏話や体験談、歌詞中に顕われる単語の社会的事件の強引な連結、外来様式や形式、技法、導入の記録、個々の作家主義的創作者や特定様式の系譜調査などのお約束から逸脱したりと、やや型破りなところのある大衆歌謡史の著作である。
ある時期の大衆的人気を享受する大衆歌謡が、それを選択した当時の大衆庶民の社会心理、欲望と適応するところに焦点を合わせて書かれたこの研究書は、トロット、イージーリスニング、フォーク、ロックなどの様式を、単に形式的特性ということだけで弁別するのではなく、社会に対するそれぞれの態度の違いを明らかにするよう分析している。
読者は、ナミンス、イミジャ、チョヨンピル、キムミンギ、ソテジなど、身近に感じられる名前に出会う喜びを確認しながら、彼らがどうしてあんなにも、あの時代の大衆たちを熱狂させたか、そしてそれがどういう意味を持っていたのかを、真剣に見直す楽しみを持たれることになるだろう。
いやはや、たったこれだけを訳するのにたっぷり1時間かかってしまったぞ(>_<) でも、だいたい本書の内容と姿勢が分かってもらえたと思う。とにかく真面目、とにかく真剣、とにかく大衆文化研究書なのである(^^;)
本書は8章に分たれている。煩をいとわず、各章のタイトルと小目次を写しておく。先に白状しておくと、Morris.は第一章と第八章は、ほとんど斜め読みで済ませてしまった(^^;)
第一章 韓国大衆歌謡史を始めるにあたって
- 書誌研究比較
- 韓国大衆歌謡の一般的特性
- 作品、様式、受容者 ・作品と受容者・受容者の世界の作品・作家の作家意識
第二章 流行唱歌と大衆歌謡の始まり
第三章 日帝時代 トロットと新民謡の両立
第四章 1940年代後半と1950年代、トロットの再生産と新しい様式の混沌
- .題材の変化とトロット再生産 ・トロットの維持と新民謡の衰退・戦争、分断の悲しみとトロット再生産・微細な変化と兆し
- 米国文化の流入と大衆歌謡の変化 ・快報以前米国文化の流入・1950年代米国大衆音楽流入の意味・誇示的異国趣味と米国大衆音楽の痕跡・大衆の欲望と都市の享楽
第五章 1960年代、イージーリスニングの定着とイミジャのエレジー
- イージーリスニング定着 ・1960年代イージーリスニングの大衆音楽史的性格・1960年代イージーリスニングの音楽的特性・都市の楽しみと庶民の希望・イージーリスニングの抑制された悲劇性
- トロットの変化と維持 ・トロット安定感と緩み・近代化の落伍者と引き裂かれた痛み
第六章 1970年代、青年文化の光と影
- 青年文化 フォークソング ・フォークソング台頭と社会的脈絡・西洋音楽定着の新しい進展・自由と純粋と観照
- 1970年前半期、ロックとイージーリスニング、そしてトロット ・柔らかいロックとシンジュンヒョン・イージーリスニングとトロットの維持
- マリファナ事件と1970年代後半の変化 ・マリファナ事件とフォークの挫折そして変質・トロットの復活とロック歌手の投降・大学歌謡祭とロック第二世代キャンパスバンド
第七章 1980年代、チョヨンピルとバラッドの時代
- スーパースター、チョヨンピルとロックの新しい全盛期 ・大衆歌謡界の天下統一、チョヨンピル・主流の別の歌手たち・ロック大衆化時代の人間観と世界認識
- トロット、ダンスミュージック、バラッドの鼎立とバラッドの隆盛
・後半期の主流ポップバラッド・ダンスミュージックとトロット
3.アンダーグランドの本格化と民衆歌謡の大衆歌謡圏への進出 ・アンダーグランド・民衆歌謡の大衆歌謡圏進出
第八章 1990年代、ソテジとポストソテジ
- 1990年代新世代大衆歌謡の新しい版図 ・1990年代の火斗、新世代・ダンスミュージックとアンダーグランドの構図の中のソテジ
- 1990年代大衆歌謡の世界認識と態度 ・孤立した個人の自我探求・引き裂かれたメチャクチャな世間・トロットとフォークの命運
- ソテジの引退とポストソテジ
ふーっ(>_<)目次だけでもまた1時間以上かかってしまったぞ。目次見ただけで、著者の本気さとやる気はわかってもらえると思う。
本当は各章ごとのMorris.の感想など書くつもりだったが、そんなことやってたら膨大な量になってしまうし、引用など始めたらどれだけ時間がかかるかしれやしない。とにかく韓国歌謡は、実に目まぐるしく変化していて、日本の影響もかなり大きい。アメリカの影響も大きいし、韓国の伝統音楽とは完全に別物になってる観もあるのだが、それでも韓国独自の歌の心みたいなものはたしかにあると思う。
Morris.が本書で唯一残念だったのは、ポンチャックディスコメドレーと、イパクサ、キムヘヨンの名前が出てこなかったことだ。その代わりに、チュヒョンミ登場の部分にポンチャックメドレーと関連する記事があったので、これを援用して、おしまいにする。
トロットの流れは1984年「サンサンパーティ」というトロットメドレー音盤の主人公チュヒョンミの登場でまた新しい変化を見せた。同じテンポで長時間流れるダンス用音楽として発生したトロットメドレーは、聴きなれた歌を、すごく単純化した一律的機械的な編曲で続けるため、違う曲もほぼ同一な感じだし、速度も一定しているので、休み無く同じ調子の歌を聴いてることになる。ここで重要なことは歌一曲一曲でなく、もともとそれぞれの歌が持っている切実な感動を完全にとっぱらってしまったということである。この休みなしに一定なリズムで歌が流れていくというのが、いっそ重要な点である。主に運転手を中心にして仕事をしながら歌を聴ける層に普及していった。
これは確実にイパクサのポンチャックディスコメドレーのルーツだな。