死の讃美

morisakikazuo2006-04-15

前回「希望歌」をとりあげたが、ほぼ同じ時期にやはり半島で広く愛唱された歌に「死の讃美 사 의 찬미サエチャンミ」がある。
「希望歌」は内容に反して「絶望歌」と呼ばれるほど虚無的な歌詞だったが、こちらはタイトルからしてそのまま絶望的に暗い。1920年代の時代背景を考えるとむべなるかなの感があるが、この二曲は当時の世相を象徴する曲の双璧といえるだろう。
そして、「死の讃美」も一度聴いたら忘れられないメロディであることも、「希望歌」と同様である。「希望歌」が「七里ガ浜哀歌」のメロディを借用してるのに対して、こちらはワルツ「ドナウ河の漣」のメロディを借用しているのだ。
1919年官費留学生として日本の東京音楽大学に留学したソプラノのユンシムドクが、1926年に吹き込んでヒットさせたものである。クラシック歌手が流行歌を歌うという意味でもかなり厳しい指弾を受けたらしい。彼女は恋多き女性でもあり、結局は連絡船から玄海灘に身を投じてその短い生涯を閉じた。
実はMorris.はこの歌より先に同じタイトルの映画「死の讃美」(1991 キムホソン監督)に出会い、これにぞっこんになってしまった。封切りではなく、場末の三流映画館で「愛馬夫人」なんていうポルノに近い映画と2本立てで上映されていた。タイトルに惹かれて時間つぶしに入ったのだが、そのまま映画の世界に引き込まれてしまった。当時は今より韓国語の聞き取り能力は無かったのに160分という長尺の作品を見て、感動したというのは不思議でもあるが、この映画が一種の音楽映画だったからそれだけでも楽しめたのかもしれない。
テーマ曲でもある「死の讃美」はもちろん、ヒロイン、ユンシムドクが卒業公演でプリマドンナを演じるオペラ「蝶々夫人」の場面もかなりの時間をかけてたっぷり楽しめたし、彼女に思いを寄せる作曲家ホンナンパの名歌曲「鳳仙花」の始唱場面も感動的だ。さらに、Morris.眷恋のシャンソンノワールの歌姫ダミアの曲が、映画の重要な場面で執拗なくらいに流れていたのが印象的だった。この映画が音楽映画として鑑賞できる大きな要因は、ヒロインの歌唱部分は本物のソプラノ歌手が吹替えしてることだろう(^^;)
ユンシムドクを演じたチャンミヒは、アンソンギと競演した「Deep Blue Night」を見たばかりだったので、そのギャップに驚かされたが、なかなかの好演でこの年の映画賞では主演女優賞を複数受賞したと思う。また彼女の不倫の恋の相手で玄海灘で心中を図った詩人のキムウジンを演じたシムソンミンは、撮影の後早逝してしまい、この映画が遺作となった。ホンナンパ役のイギョンヨンがまた脇役として実にうまい演技をしてた。
韓国の友人チェジョンヒさんから2本組のVHSテープもらったので、何度も見直して、大体のストーリーは把握できたし、今でも一番好きな韓国映画というとこの作品を挙げる事にしてる。またMorris.亭の壁には神戸地震と数回の引越しを経て、今も「死の讃美」の映画ポスターが貼られている(右上写真)くらいだ。
映画の話に夢中になって肝心の歌の話がお留守になったが、曲は周知のことでもあるし、歌詞は下にあるから特に書くこともなさそうだ。
ただ、日本のカラオケにはこの曲は入ってないと思うので、歌うのは難しいかもしれない。でも、元歌の「ドナウ河の漣」なら日本語版ならあるだろう。一度歌詞を覚えて韓国語で歌ってみよう。テンポはかなり遅いめにするのがポイントである。

歌姫と詩人と楽士 愛と死と恨(ハン ) の玄海灘(ヒョネタン) 戦慄円舞曲( ワルツ) 歌集『銀幕』より
http://www.orcaland.gr.jp/~morris/sambo/kashu/ginmaku.htm


[사 의 찬미 サエチャンミ 노래 윤심덕]


광막한 황야를 달리는 인생아
カンマッカン ファンヤルル タルリヌン インセンア
나는 무엇을 찾으려 왔느냐
ナヌン ムオスル チャジュリョ ワンヌニャ
이래도 한 세상 저래도 한 세상
イレド ハンセサン チョレド ハンセサン
돈도 명예도 사랑도 다싫다
トンド ミョンエド サランド タシルタ


녹수 천산은 변함이 없건만
ノクスチョンサヌン ピョンハミ オプコンマン
우리 인생은 나날이 변했다
ウリ インセンウン ナナリ ピョネッタ
이래도 한 세상 저래도 한 세상
イレド ハンセサン チョレド ハンセサン
돈도 명예도 사랑도 다싫다
トンド ミョンエド サランド タシルタ


「死の讃美 ユンシムドク」


広漠たる荒野を歩む人生
我らは何を捜して生きる哉
これも人生あれも人生
金も名誉も愛もただ憎むべし


緑水青山に変わりは無けれど
我らの人生は日々変転す
これも人生あれも人生
金も名誉も愛もただ憎むべし